アートプレイスKは今年の3月、浜田賢治氏の個展でオープンしたばかりだ。ここを運営しているのは近内(こんない)眞佐子さんである。「9月の創発」の期間中には、浜田氏と二村潤氏による2つの個展が開かれる。
去年の秋、近内さんが秩父を訪れたとき、偶然、浜田氏と出合い、それから交流が始まったという。浜田氏を介して、守屋行彬さんなどの美術家とも知り合い、彼らに誘われて都内の画廊を廻るようになった。
近内さんは東京芸術専門学校(TSA)の2期生で、そこを出たあともしばらくは作品を制作していた。17年前に自宅で造形教室を始め、この間、ものを生み出す喜びを人に伝えることに専念してきた。しかし、浜田さんや守屋さんたちとの接触を通して、ものを生み出す人間の魅力へと関心が移っていったのかもしれない。
自分自身で何かを生み出すことはもちろん重要だ。しかし同時に、真剣に表現活動を行っている人の姿を多くの人に知ってもらいたい。こうした意識の変化が、近内さんを画廊の道へと向かわせたのではないか。
北浦和駅から4分ほどのところにあるこのスペースも、初めは教室を拡張するつもりで借りたのだが、画廊にするため急遽、設計を変更することになった。画廊を開くことが知れるに従い、思わず多くの人たちが協力してくれるようになった。必要なことがあると、必ずそこに適任者が現れ足りない部分を補ってくれるのだ。人をつなぐという近内さんの才能が、ここにきて一気に開花したわけだ。
オープンしてからの数か月間、知り合いの糸を手繰りながら企画によるグループ展を開いてきた。まったく違うルートで声をかけた作家どうしが親友で驚いたりと、今は人のつながりの妙を楽しんでいるところだ。そういえば、「9月の創発」で展示する二村氏も造形教室の縁で交友を持つようになった人である。
ところで近内さんがやっている造形教室の目標は、ものづくりを通して時間を共有することである。そして、考えることと工夫することをその基本に置いている。指導者の教えることは何もなく、ただ「やってごらん」と言うだけだ。
手がかりもないままものを触るうち、必ずそこに何かが現れてくる。そして「自分にはできる」という自信がつき、積極性が生まれるというのだ。近内さんに画廊を始めさせた最大の内的動因も、実はそのへんにあったのかもしれない。
水曜と木曜は画廊を閉め、この日は造形教室に勤しんでいる。まったく違った環境が、自分の中でほどよくバランスを保っているのだそうだ。作品制作もそろそろ再開したいと近内さんは言うが、まだしばらくその余裕はなさそうである。
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