柳井嗣雄さんは自らのアトリエでの展示で、去年から「9月の創発」に参加している。その会場で今年は、阿蘇山晴子さんが柳井さんの作品と向きあうパフォーマンスを行うという。
阿蘇山さんは1980年代の初めから、布を使ってダイナミックな作品を展開させてきた。2006年にマキイマサルファインアーツでの個展を見て以来、柳井さんの作品がずっと気になっていたらしい。翌年、同じ画廊で自らの個展が開かれたことも何かの縁と感じられた。
昨年、このアトリエで行われた柳井さんの展示を見に来ようとしたが、マップに記載されていた電話番号が違っていてアポイントが取れず、そのときは訪ねられないままになった。その直後、鎌倉の光則寺というお寺で行われた柳井さんの展示を見に行き、改めて柳井さんの作品の持つ生命感に強く引かれたらしい。
阿蘇山さんは1998年から2003年にかけて、埼玉県立近代美術館の最も広い貸し展示室を使い、「怪物覚変身場」という展覧会のシリーズを3回に渡って行った。これは空間軸としてインスタレーションを設置し、そこにパフォーマンスとしての時間性を持ち込むことで、躍動する作品空間を出現させるものだった。
それが終了して以降、阿蘇山さんはパフォーマンスから離れ、しばらくインスタレーションによる空間表現に打ち込むようになる。ところがいつしか体が勝手に動きだし、件のマキイマサルファインアーツでの展覧会や、以前から縁のあった千葉の芝山仁王尊観音教寺でのイベントでパフォーマンスが再会されるようになった。
こうした流れの中で阿蘇山さんは、今年の「9月の創発」にはお寺での展示で臨みたいと考えていた。しかし、県内のいくつかの寺を訪ねてみたものの、なかなか適当な場所が見つからない。そこで改めて柳井さんに連絡をとり、コラボレーションがやれないか打診してみたところ、柳井さんはそれを受けて立ってくれたという次第だった。
阿蘇山さんはこれまで、文字表記や工芸品、身体表現等、異なる表現領域を合体させることで作品を成立させてきた。他の表現を取り込むことで自らの作品の普遍性をより高めてきたのだ。そして、それを共同制作とするのではなく、あくまでも自分の作品として完結させていくところに特徴があった。そこがこれまで、美術家とのコラボレーションを成立させにくくしていた理由だったのかもしれない。
柳井さんは、今回はアトリエに平面作品と立体作品を置き、庭一面に麻の繊維を敷き詰めるという。阿蘇山さんはオーガンジーを素材としたモノトーンの布で身を包み、その2つの空間に関わっていくらしい。そのことで、柳井さんの作品の中に溶け込むことを目指すのだ。
柳井さんの植物繊維は、凝縮した生命感を漲らせている。一方で阿蘇山さんの作品は、限りなく膨張する生命体だ。時まさに夏と秋とを分かつ夕間暮れ。この2つの方向が交叉することで、どのような生命の躍動が巻き起こるのか楽しみである。
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