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呼友館の運営を行っているのは篠田正治さんだ。長く三越の美術部に勤務していた人で、顧客として神山氏と懇意にしていたそうだ。そこで神山氏は、新たにできる美術展示施設の運営を任せたいと打診した。篠田さんもまたそのころ、ちょうど定年を迎える時期となっていた。
篠田さんは、これまでやってきた仕事とはまったく違うアプローチでここを運営したいと思った。まず作品を売ることは目的としない。そうではなく、作品や作家を介して美術を楽しむ場所にしたかった。そのことで、地域で育まれる縁を大切にしようとしたのだ。このように友が友を呼ぶような場所になることを願って、ここを「呼友館」と名づけた。
ここでは1つの企画を2か月間かけて行い、年4~5回のペースで展覧会を開いている。出品者の選定に関しては、とにかくよい作家を紹介していくことを心がける。開幕展は、二紀会委員で埼玉大学教授でもある吉岡正人氏の個展だった。絵画系の展示がどうしても多くなるが、彫刻作品の紹介にも力を入れており、2010年には芸術院会員である市村緑郎氏の家族展も行った。
私が訪れたときは、「CONTEMPORARY ART NOW 川越Ⅱ」という現代美術系の展覧会だった。川越ゆかりの出品者が多かったが、たまたまこのような顔ぶれになったそうだ。川越には美術に関心を持つ人が少なくないが、土地柄からか、どうしてもその対象作家も地域限定になりやすい。展覧会を見に来てほしいのは地元の人であるが、出品者を選ぶときはできるだけ地域を限定しないようにしているそうだ。
ここは基本的に作品を見てもらう場所であるが、展覧会を行ううち、出品者もけっこう展示を楽しんでいることがわかってきた。部屋の間取りがバラバラなので、それぞれの空間の特徴に合わせて工夫しながら作品を配置していかなければならない。そのことで、作者自身が自作を用いてさまざまな見せ方を実験しているようなのだ。そしてそうした作者の工夫や試みは、当然のことながら、見る側を楽しませるための付加価値ともなってくる。
今日、美術家にとって厳しい時代となった。そんな中でも、少しでもよい環境で経験を積んでいってもらうことが願いだと篠田さんは話していた。