このたび、8年間、地下活動を続けた「地美懇(ジミコン)」を解散し、新たに「チビジ」を立ち上げました。地美懇は「地域の美術懇話会」の略で、チビジは「地域の美術実践会」の略です。このブログでは、チビジの事務局長となった松永が、埼玉の美術状況について思うことを随時、書き連ねてゆきます。
今、横浜では、美術関係の催しが目白押しでけっこう賑やかです。それに対して、東京をはさんでこちら側のさいたまは、異常なほど静かです。しかし、いくつかの兆候から、機運はそこそこ熟してきているように思われます。この会の姿勢は、一人一人ががんばれば世の中はよくなるといった、経済成長期特有の社会通念とは一線を画します。そうではなく、それらをつなげ、ひとつのムーブメントとしていくことを目指します。
今の日本は個人主義社会です。個人主義社会は分散を志向します。ところが、公共を持たない日本社会では、そのことで逆に個人の存在が見えにくくなっているように思います。そこで、バラバラになった個人や小集団の活動をつなげるための、もうひとつ別の位相の活動がどうしても必要になります。
具体的には、毎年9月に埼玉県内で行われる美術展を連携開催展として位置づけ、キャンペーンを張るということをします。この計画を「さいたま美術展<創発>プロジェクト」(英語名「Saitama Resonant Exhibitions Project」、略称「SREP」)と呼びます。すでに定期的に行われている、またはこれから行われようとしている展覧会は、埼玉県内にけっこうあります。でもそれらがバラバラに行われている以上、ムーブメントとなることは絶対にありません。そこで、それらをチビジが有機的に連携させていこうというわけです。
実施時期としては、来年の9月に焦点を当て、その時期に行われる展覧会の「展示創発」マップづくりを行います。それに先んじて、今年からウェブ上でのプレ活動を始めます。今年の9月に埼玉県内で行われる注目すべき展覧会を、まずウェブ上で紹介してゆきます。
創発とは、マイケル・ポランニー(佐藤訳ではポラニー)の『暗黙知の次元-言語から非言語へ』に出てくる「emergence」という言葉を、埼玉大学の教師だった佐藤敬三氏が訳したものです。Emergenceなら「発現」としたくなるところですが、あえて新しい言葉で「創発」にしたのはよかったと思います。
Wikipediaによると、創発とは「部分の性質の単純な総和にとどまらない性質が、全体として現れること」とされています。例として、「脳は、ひとつひとつの神経細胞は比較的単純な振る舞いをしている」にもかかわらず、それらが総体化することで意識というメタ世界を創発させるし、「進化論では、突然変異や交叉による遺伝子の組み合わせによって思いもよらぬ能力を」創発させるとなります。要するに、何かをしようとするとき、その目的というのは実はあとから見えてくるものだということです。まさにアートそのものであるにもかかわらず、この言葉が美術の世界で使われないのが不思議なくらいです。
たぶんこれを読んだ人のほとんどは、そんなことして何になるかと思われていると思います。実を言えば私自身も、これがどのように展開していくのか見当がつきません。しかし、目的というのはあとから見えてくるものです。そしてより大きな成果を得るためには、そこに関わる個々が自立していなければなりません。これが創発の原点です。皆様のどのような疑問にもお答えします。ぜひ、この活動に賭けてみてください。
マニフェスト:
チビジは、価値の一元化を求めたモダニズムを超え、異なる価値が共存するポストモダンの美術社会を目指します!
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