北本市で、アートで市を活性化させるためのプロジェクトが始まった。初日の8月11日、私は夕方から行われた「オープンディスカッション」に参加した。話を聞きながら、この活動は、北本という一地域の問題ではなく、埼玉全域における今後の芸術活動について考える上で、非常に示唆に富むものであると感じた。そこでこの欄では、何回か続けてこの催しについて報告することにする。
本事業は、北本市の石津けんじ市長自らの発案で始まったものである。石津氏は2003年、39才の若さで市長に初当選した。就任当初から、芸術活動を用いて市を活性化させたいという希望を持っていたようだ。そんなところへ2005年の9月、北本市文化センターにおいて、市内在住の美術家、永山聡子さんらによる2人展が行われた。そして、そこに石津市長が訪れたことから話は始まる。
このときの永山さんの展示作品は一般的な日本画が中心だったが、資料の中に掲載されていた旧作の大がかりなインスタレーション作品を見て、市長はかなり衝撃を受けたようだ。市長は、このような現代的な美術作品を集めて展覧会をやりたいという想いを永山さんに語り、協力してもらえないかと相談を持ちかけた。そこで、永山さんが私の方に話を振り、さっそく翌月、永山さんとともに市長と会うことになった。
市長は、どこかで「大地の芸術祭」のことを耳にしていたようで、予算はないのだが、あのように世間の耳目を集められる催しがやりたいのだという。そこで私は、「大地の芸術祭」のような大規模な展覧会をやるのなら、文化予算ではなく土木予算で対応するべきである。だがそれよりも、予算はかけずに時間をかけて、地域に根づかせていくような催しの方が意味があるのではないかというようなことを話した。そしてそれ以降、私にも永山さんにも連絡はこなくなった。
そんなことがあったこともすっかり忘れていた今年7月の末、「埼玉県北本市でアーツなプロジェクトを考えるためのキャンプ。」が開かれるという情報が、まったく別なところから飛び込んできた。これをMLで流してくれたのは、この事業を担当している同市生涯学習課の五十殿彩子(おむかあやこ)さんという人だった。
ところで、石津市長は昨年、2度目の市長選を勝ち抜いていた。自治体の首長には、1期目は文化事業に手を出してはならないという鉄則がある。文化事業には落とし穴が付きものだからだ。2期目となり安定政権に入ったことで、石津氏はようやくその本領を示し始めたのだろう。そこでさっそく、念願だったアート・プロジェクトを稼働させたわけである。
新年度に入り、市長は、たまたま知遇を得た東京藝術大学の熊倉純子さんに改めて相談を持ちかけた。市長は、私のときと同様、お金はないが「大地の芸術祭」のようなことをやりたいと言ったらしい。そこで熊倉さんは、やはり私と同じように、時間をかけて地域に根づいていくような催しにした方がよいと諭し、その参考として熊倉さん自身が関わっていた取手アートプロジェクト(TAP)を紹介した。TAPというのは、1999年から茨城県取手市において、市民と市、東京芸術大学の三者が共同で行なっているアートプロジェクトで、現在、その成果を確実に見せてきている。
北本でのプロジェクトを実現させるに当たり、熊倉さんはまず、TAPをともに推進していた水戸芸術館の森司さんに協力を求めた。そこで森さんは、手始めに日比野克彦氏が行っている「明後日朝顔プロジェクト」を取り入れることとした。そして、その下見のとき藤浩志さんを誘い、この町で何かできないかと誘い水を差したそうだ。しかし、街中をしばらく散策したものの、藤さんには何のアイデアも浮かんでこない。それならば、ここで何ができるかを考えるためのプロジェクトをやるしかないじゃ~んという話になり、この催しが急遽、実現することとなったわけである。(続く)
北本アーツキャンプ―埼玉県北本市でアーツなプロジェクトを考えるためのキャンプ
ホスト:藤 浩志(美術家)
ゲスト:秋元雄史(金沢21世紀美術館館長)/曽我部昌史(建築家・神奈川大学工学部建築学科教授)/KOSUGE1-16(アーティスト)/熊倉純子(東京芸術大学音楽学部音楽環境創造科准教授)
企画協力:森 司(水戸芸術館主任学芸員)
とき:2008年8月11日(月)~15日(金)
※オープンディスカッションは11日~14日連日夜7時より
ところ:北本市野外活動センター(http://kcoac.ecnet.jp/)
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