「橋本真之展」ギャラリー緑隣館、9月21日(月・祝)~27日(日)
橋本真之さんは、代々、上尾駅近くに居を構える家に生まれた。ところがその土地は、周辺の数件の家とともに上尾市の共同開発事業区域指定を受け、マンションの建設予定地とすることになった。そして1997年、この工事の完了に伴って、マンションの住居と道路に面した1階部分が橋本家の所有となった。
橋本さんの父は書家だった。父の提案により、そこを書道教室兼ギャラリーにすることになった。ところが、ここが完成して間もなく父は他界する。そこで書道教室の壁を取り払い、全室をギャラリーとして使用するようになった。
橋本さんは一貫して、鍛金による制作を続けている美術家だ。ここでの個展は今回で3度目となる。このギャラリーを開設するとき、立体作品の展示も想定して窓の大きな明るい外光の入る空間にした。緑地の樹木を眺めながらゆっくり作品を鑑賞できるつくりだ。
鍛造で成形され引き伸ばされた作品は、途中で分断され、また違った形で増殖していく。それらが室内と樹木の間を行き来しながら、自在に形を変化さていくのだ。ひかわ幼稚園やアッピー通りのコープ愛宕等、周辺にも枝分かれした作品が置かれているので、ここを訪ねた折にはそれらを見て歩くのもよい。ちなみに上尾市役所まで行けば、多田美波さんや清水九兵衛さんなどの作品を見ることができる。
周辺の住民は橋本さんの顔なじみだ。ここを訪ねた日、地域の祭で使った資材が一時的にギャラリーに保管されていた。近所づきあいもそれなりにこなしているのだろう。しかし橋本さんは、こうしたふだんの生活と作品の制作活動とは明確に区別しているという。作品制作は、日常と密接に結びついてはいるが、日常とは明らかに異なるいわばその上澄み的な存在なのである。
一方で美術に関ることでは、近隣の美術家とも連携を取ってきた。上尾市の美術家協会に参加し、かつては美術館の建設運動に参加したこともあった。橋本さんはこれまで、都内を主な作品の発表場所としてきたが、経済情勢の変化でそれも減りつつある。これからはおそらく、県内での発表の機会もさらに増えてくるだろう。
美術にとって埼玉の最大の弱点は、批評活動があまりに少ないことだと橋本さんは言う。批評する人がいなければ、美術家どうしで互いに批評をするしかない。現在、ここは貸しギャラリーとして機能しているが、使用頻度は月に1回程度である。運営はたいへんだと思うが、近隣の美術家たちが互いに批評し合える場として、今後もこのスペースを維持していってほしいと願う。
(090722取材)
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