「2009. Autumn. DAIMON.(消地)」武蔵野線東川口駅北口東側高台造成地、9月1日(火)~20日(日)
さいたま市では現在、「さいたま市区画整理協会」という財団法人が主体となり、市内の数か所で土地区画整理事業が進められている。この法人は市が地権者を集めて設立したもので、行政と市民が土地の利用について共に考え、区画整理事業を円滑に進めることを目的としている。
同協会の前身は、1972年に設立された「浦和市土地区画整理協会」だった。ところがこの事業は遅々として進まず、そのうち大宮との合併が行われ、名称が変更されて現在に至る。市も地権者も、これらの土地ができるだけ早く整備されることを待ち望んでいる。
さて、浦和市の南東の端に位置するJR武蔵野線東川口駅東北側の大門地区もまた、この区画整理事業に指定された地域で、同協会内の「大門第二特定土地区画整理組合」が管轄している。そして田中千鶴子さんは、まさにこの場所で生活を営み、作品を制作してきた美術家である。
このような状況を踏まえ、田中さんはあえて、この造成地の空き地を使って作品を展示することにした。初め、高速道路に程近い公園予定地を提案したが、それはあえなく却下された。さまざまな市民感情が交差する中でこの展覧会が行われ、思わぬ波紋を呼び起こすことは、関係者たちにとって望ましいことでなかったのだろう。
田中さんはかつて、さいたま市議会の議員だった村上明夫氏などと自然保護運動を行ったことがあった。村上氏は議員活動を通して自然保護を訴え、見沼田んぼの保護にも尽力してきた人物である。この公園の開発が行われることになったときも、田中さんたちとともに環境アセスメント条例を制定して周辺に生息する動植物の保護を訴えた。このような田中さんの問題意識は、決してにわか仕立てのものではなかったのだ。
たとえばこの地域には、樹齢数百年を超える大木が数多く残っている。しかし、区画整理事業には「更地換地」の原則が伴う。所有する土地を別な土地と交換するとき、そこを更地にして明け渡さなければならないという決まりだ。そのため今、この地域の樹木は次々と伐採されている。
田中さんは、作品の新たな設置場所を探すに当たり、さらに東川口駅に近いところに目をつけた。しかし今度は、ぎりぎりまでその計画を公表せず、近づいたところで一気に許可を取るつもりだ。審議の余地が増えれば、許可が降りにくくなるのは目に見えているからである。
田中さんが行う展覧会のタイトルは「消地」。鋳鉄とステンレスで成形した作品を、この場所でインスタレーションするという。ここは大門南土地造成地区、この土地の記憶が次々と消されていく。作品には、人々が代々守ってきたこの土地への、敬意と哀悼の思いが込められている。
(090715取材)