「創発2009」に参加した「いのちを見つめる」展に、私はその準備段階から付き添ってきた。その間に命についていろいろと考える機会を得、そのことを同展の記録集に寄稿させてもらった。同展を主催したelementの代表である高草木裕子さんの許可を得て、その文章をここに転載させてもらうことにした。
近くの命と遠くの命-「いのちを見つめる」展に付き添って
今、生命の問題が静かにクローズアップされている。延命治療、臓器移植、尊厳死、自殺、無差別殺人等々。生命の意味が細分化され、ひとつの総体として見えにくくなり、その一側面をもって全体を判断しなければならなくなっているのだ。今回の「いのちを見つめる」展は、こうした複雑化した命の問題に対し、美術家が何を示せるのかを問う試みであった。
この展覧会はelementという美術家のグループによって行われた。element会則の趣旨文には、「いのち」について考えることを目的としていることが明記されている。これまで行ってきたさまざまな催しも、それを少しずつ解きほぐしていくための手順だったのだろう。そして今回、改めて真正面からこの「いのち」というテーマと向き合うことになった。
直接のきっかけはこの前年、「いのち」をテーマとするアーティスト・ブックを作ったことだった。高橋理加さんから「なぜ人を殺してはいけないか」という重い課題が与えられ、それに対して個々のメンバーが言葉や造形で表現に取り組んだのだ。この実践は、それぞれが命という問題と真剣に向き合うための心の準備となったようだ。
アーティスト・ブックの制作にあたり、elementのメーリング・リストを使ってこのテーマに関するブレイン・ストーミングが行われた。私もそこに参加し、命についてさまざまに想いを巡らす機会を得た。そのとき考えたことについて、ここで自分なりにまとめてみようと思う。(つづく)
『「いのちを見つめる」展記録集』
発行:element(エレメント)
362-0003上尾市菅谷4-43
電話:048-772-3623
2009年10月31日