「ラッキー☆スタジオ」は、西武多摩湖線下山口駅から歩いて15分ほどのところにある。ここのメンバーは、すべて武蔵野美術大学の卒業生と在学生だ。和泉賢太郎さんが絵を描いている以外、みな彫刻専攻である。
和泉さんとうらうららさんは武蔵美を卒業後、大学近くのアトリエ村「未来工房」で制作していた。「未来工房」は2001年に共同アトリエとして建てられ、立地から武蔵美の出身者が多く利用している。毎年、開かれるオープン・スタジオは、鳴り物入りでけっこう盛り上がるらしい。
ところが、作品が大きくなるにつれ制作空間が手狭になり、2人はもっと安くて広い場所を探すことになった。東京と埼玉の境界を越えると家賃がぐっと下がり、そこでたまたまこの物件と出会った。2人で使うには広すぎるため、まだ大学在学中の早川裕太さんや篠原奈美子さん、チェ・スヨンさんらに声をかけ、さっそく新しいアトリエをオープンすることになった。
いちばん手前の閉じられた部屋は和泉さんが使っている。絵画なので立体作品の埃の遮断が必要なのだ。さまざまな色彩による有機的な線を、キャンバスの上に重層的に描いていく。
その隣はインスタレーションの早川さん。今年、行われたギャラリーαmの個展では、会場内に既製品を思わせる白いオブジェを据え付け、それらをつなげるように水を循環させる作品を展示した。
3つ目の部屋がチェ・スヨンさん。生命感のある無数の形態が、ひとつの立体の中から続々と増殖してくる。
手前の棟のいちばん奥が篠崎さんの部屋。動物をもとにした造形物を会場に配置して、暗示的な空間を作る。
奥の棟はうらさんが一人で使っている。うらさんは樹脂や焼き物で人体像を複数作り、視覚を揺るがすようにそれぞれに強烈な色彩や形のバリエーションを加えていく。
彼らはそれぞれ異なるテーマや方法で制作している。強いて共通点を挙げれば、しばしばFRPを使うということぐらいだ。だから共同アトリエの裏手には、FRP制作を行うための小屋がある。美術大学には珍しいらしいが、武蔵美にもまたFRPの作業場があり、そのため必然的に卒業後もFRPを使う人が多くなるらしい。
今回は、これらのメンバーに加えて深井聡一郎さんが賛助出品する。最近は、歴史の中で築き上げられた造形物の形態を引用しながら、焼き物で制作している。
深井さんは武蔵美で講師をしているが、去年までは助手という立場だった。だから、ここのメンバーとはいわば師弟関係になる。しかし少なくともここにいる間は、立場の違いを超えて同じ作家として親交を持ち続けているようだ。
入居者たちは、このアトリエのことを自転車修理屋と呼んでいる。実際、全員が自転車を持っていて、気分が乗ると連れ立って多摩湖周辺をサイクリングするという。そういえば創発マップに掲載されているマークも自転車だった。
「9月の創発」参加の勧めに即応してくれた反応のよさも気持ちよかったし、私が訪ねた日、最後の話題はオープンスタジオでのバーベキューのことだった。こうした屈託のない軽やかさが、美術が地域と結びついていくための原動力になる気がした。
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